地域内経済循環とは

 

武蔵野の台地に起き、歴史を紡いできた所沢の街に、もう一度「地域内経済循環」を復興させたい。それが私たち「まちつくり所沢」の考える街づくりです。

今の武蔵野は林である。林はじつに今の武蔵野の特色といってもよい---文豪・国木田独歩が名作『武蔵野』で雑木林に見いだした武蔵野の美しさは現在に続きますが、独歩自身も記すように、意外なことに江戸時代に至るまではオギやススキなどが一面に生えた草原でした。
江戸時代の大規模な開発により広大な農村地帯が誕生するにともない、コナラやクヌギなどの落葉樹の林が広がるようになりました。
これが、武蔵野の雑木林の起源です。

ではなぜ、人々の暮らしが広がるとともに雑木林が広がったのでしょうか。
落葉樹は、気温や湿度が高く生育に適した春夏に茂らせた葉を、秋になるとすべて落として休眠に入る樹木です。
地面に落ちた葉や枝はさまざまな微生物によって分解されて腐葉土になり、それが再び植物の栄養素となって循環します。
江戸時代、この地に入植した人々は、こうした落葉樹の特性を利用して、腐葉土を肥料として農地を肥えさせ、落枝や間伐材を薪や炭などの燃料としてきました。
所沢においては、300年以上前に屋敷地・耕地・平地林をひとつの区画として造成された短冊形の地割が、「三富開拓地割遺跡」としていまもなお残っています。
そこでは、そうした落葉樹の特性が積極的に取り入れられたばかりでなく、その根が地下水を吸い上げることにより地下水位が上昇、水の得にくかったこの地に水の恵みまでもたらすようになったともいわれています。
この300年以上続けられてきた営みが、持続可能な循環型農法として、近年は世界的にも注目されています。
このように、所沢の街と暮らしは元来、「循環」によって成り立ってきたと言えます。

近年、各地の街づくりにおいて無数の「地産地消」の取り組みが行われるようになりました。
しかし、この言葉のもつ意味の懐の深さを、どれだけの人々が理解しているでしょうか。
それが食べものであれば、確かに地元で獲れたものは新鮮で美味しく、地域の風土・食文化を伝えるにも必要です。
地元での消費はフードマイレージも短く、食料生産と消費の地域循環は環境保護にも寄与します。
しかし一方で、地産地消とは地域社会が自立するための経済的基盤にほかならないということは、忘れられがちです。
地元で生み出された価値が地域内で消費・換金されることで、再び価値創造の原資として働き手の元に戻る。
グローバリゼーションの時代だからこそ、こうした経済的循環を目指す取り組みが、地域に求められるのです。

私たち「まちつくり所沢」は、そうした地域内経済循環を新たに創造していくことを目的としています。
それはあたかも、落葉樹の営みに寄り添ってきた昔のあり方---本来畑作には向かない粘土質の関東ローム層がたい積する武蔵野台地で、長年手塩にかけて肥よくな農地を育て、持続可能な街と暮らしを築いてきた先人たちの知恵を、現代に蘇らせることなのかも知れません。
私たちの目の前に広がる平らで広大な台地。そこに染み込んできた先人たちの知恵と努力。
それこそが、他の地域と代え難い歴史や文化、風土---価値の源泉なのではないでしょうか。